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浦和地方裁判所 昭和29年(ワ)219号 判決

原告 広沢製氷冷蔵株式会社破産管財人会田総七

被告 赤平哲二

主文

被告は原告に対し別紙目録〈省略〉(一)(二)記載の物件を引渡せ訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告は主文同旨の判決を求め、その請求原因として、(一)大宮市大字小村田二百二十番地訴外広沢製氷冷蔵株式会社は多額の債務を負担し、昭和二十八年五月末日一般に支払を停止し、昭和二十九年二月十八日浦和地方裁判所において破産の宣告を受け、同日原告はその破産管財人に選任されたものであるが、これより、曩、(二)(イ)訴外伊藤興業株式会社は昭和二十八年十月二十日東京地方裁判所同年(ワ)第三一五〇号売掛代金請求事件の執行力ある判決正本に基いて浦和地方裁判所執行吏山田靖三に委任し前記破産会社所有の別紙目録(一)記載の物件に対し強制執行をなし、(ロ)大宮税務署は同年十月十六日国税滞納処分により右破産会社所有の別紙目録(二)記載の物件を差押え公売に付したが、被告は昭和二十九年一月二十九日前記(イ)の競売において別紙目録(一)記載の物件を代金十四万円にて競落し、同年四月二十七日前記(ロ)の公売において別紙目録(二)記載の物件を代金十二万六千八百六十円で落札して何れもその所有権を取得した。(三)ところが、前記物件は右破産会社が昭和二十三年以降において三百万円以上をもつて設備した唯一の資産で捨て値にしても別紙目録(一)記載の物件は価格六十万円以上、又別紙目録(二)記載の物件は価格百万円以上のものであるから、破産者自身が右のような価格で所有権移転の行為をしたとすれば破産法第七十二条第五号に該当する支払停止後の無償行為と同視すべき有償行為である。よつて原告は破産法第七十二条第五号第七十五条により茲に前記競売及び公売による所有権取得を否認する。よつて被告に対し右物件の引渡を求めるため本訴に及んだ次第であると述べた。

〈立証省略〉

被告訴訟代理人は原告の請求を棄却するとの判決を求め、答弁として、原告主張の(一)及び(二)の事実はこれを認めるが、その余の事実はこれを否認する。被告は広沢製氷冷蔵株式会社に対する強制執行による競売又は国税滞納処分による公売において本件物件をそれぞれ最高評価額をもつて適法に競落又は落札してその所有権を取得したものであるから、右行為は何等破産法第七十二条第五号の無償行為及びこれと同視すべき有償行為に該当するものではない。従つて否認を受くべき筋合はない、と述べた。〈立証省略〉

理由

原告主張の(一)及び(二)の事実は当事者間に争がない。

而して鑑定人武田義夫粟屋良馬の各鑑定の結果を綜合すれば、「別紙目録(一)記載の物件の昭和二十九年一月頃の価格は金六十四万五千円、別紙目録(二)記載の物件の同年四月頃の価格は金七十三万円右合計金百三十七万五千円、現状のままの利用価格は金二百九十五万円位と認められる(証人岩井半五郎の証言及び前記鑑定人両名の鑑定中右認定に反する部分は措信しない)ところ、被告は別紙目録(一)記載の物件については金十四万円別紙目録(二)記載の物件については金十二万六千八百六十円にてこれを買受けたことは当事者間に争がないから彼此価格を比照考覈すれば前記売買行為は破産法第七十二条第五号に所謂無償行為と同視すべき有償行為と云うことができる。」

「被告は前記物件の取得は強制執行手続及び国税滞納処分手続においてそれぞれ最高評価額をもつて適法に競落してその所有権を取得したものであるから破産法第七十二条第五号に該当しない旨主張するけれども、同法第七十五条によればその行為が執行行為に基く場合でも否認権の行使を妨げないから、右被告の主張は採用できない。

然らば原告は破産法第七十二条第五号第七十五条により前記競売及び公売による所有権取得を否認できるから、原告の本訴否認権行使の結果右競売及び公売による所有権取得は否認せられたものとする。従つて被告は本件物件を原告に引渡すべき義務あるものである。」よつて原告の本訴請求は正当にしてこれを認容すべきものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 西幹殷一)

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